探偵小説に精神分析を導入する試みの先鞭をつけた作品「疑惑」、乱歩には珍しいユーモラスな短編「接吻」、E・A・ポオの「跳び蛙」に想を得た佳品「踊る一寸法師」、ヒロインの訴えるような語り口が印象的で、再三にわたり映像化、劇化されている表題作「人でなしの恋」、心酔していた宇野浩二を思わせる「木馬は廻る」等々、『算盤が恋を語る話』につづいて、大正14年7月から15年10月にかけて発表された10編を収録。著者の短編作家時代の掉尾を飾る作品集である。初出時の挿絵全点を付した。挿絵=斎藤五百枝・松野一夫・椛島勝一・伊藤幾久造・名越國三郎ほか
●収録作品
「百面相役者」
「一人二役」
「疑惑」
「接吻」
「踊る一寸法師」
「覆面の舞踏者」
「灰神楽」
「モノグラム」
「人でなしの恋」
「木馬は廻る」
江戸川乱歩
(エドガワランポ )1894年生、1965年歿。大正12年の〈新青年〉誌に掲載された「二銭銅貨」がデビュー作。それはまた、わが国で初めて創作の名に値する作品の誕生であった。以降、「パノラマ島奇談」等の傑作を相次ぎ発表、『蜘蛛男』以下の通俗長編で一般読者の、『怪人二十面相』に始まる年少物で少年読者の圧倒的な支持を集めた。推理小説の研究紹介や、新人作家育成にも尽力した巨人である。