〈ぷろふぃる〉という雑誌の1947年4月号に発表した「類聚ベスト・テン」というエッセイの中で、江戸川乱歩は「小説のベスト・テンを選んだり等級をつけたりするのは、純粋には凡そ意味のないことであるが、小説の中でも探偵小説に限っては何かそういう段位をつけて見たい誘惑を感じる」と述べている。その前年、「探偵小説の方向」という随筆の中で、探偵小説は第一次大戦後、長篇時代に入ったという認識を示し、古典長篇や短篇作品を除き、「現在の私のベスト・テン」を下記のように選んでいる。
1.フィルポッツ『赤毛のレドメイン一家』/2.ルルウ『黄色い部屋』/3.ヴァン・ダイン『僧正殺人事件』/4.ロス(すなわちクイーン)『Yの悲劇』/5.ベントリ『トレント最後の事件』/6.クリスティ『アクロイド殺し』/7.カー『帽子蒐集狂事件』/8.ミルン『赤い家の怪事件』/9.クロフツ『蹲』/10.コール『百万長者の死』 ほかに別格としてシムノン『モンパルナスの夜』(『男の首』)/ルブラン『813』
そして、「これらの諸作を読まずして本格的探偵小説を語ることはできないのである」と言い切っている。
さらに乱歩は『幻影城』刊行時(1951年5月)に、「古典ベスト・テン」を選び、「一九三五年以後のベスト・テン」を加えた上で、「黄金時代のベスト・テン」の10位を『ナイン・テイラーズ』に変えている。それがここに示したベスト・テンというわけだ。
(編集部・戸川安宣 1999/4/1)
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