京極夏彦が選んだベスト5 創元推理文庫

  1. 吸血鬼ドラキュラ/ブラム・ストーカー
  2. 奇巌城/モーリス・ルブラン
  3. 賢者の石/コリン・ウィルソン
  4. 日本探偵小説全集10  坂口安吾集/坂口安吾
  5. キッド・ピストルズの冒涜/山口雅也

 創元推理文庫のベスト5を選んで欲しいというご注文があり、お引き受けしたはいいが、悩み過ぎて熱を出してしまった。正気ではとても選べるものではない──とは思うものの、熱にうかされて考えてみても、やはり選べはしなかった。思うにこの手の企画は多いようだから、毎年毎月選ばねばならぬ方も中にはいらっしゃるだろうに、数値化出来ぬものに順位をつけたり、相対的な基準をもとに採点したりするのは大変なご苦労だと思う。私などにはとても出来るものではない。今までも敬遠してきたのだが、これを機会に二度と引き受けるのはよそうと、改めて強く思った次第である。という訳で、今回選んだ5冊はいずれも名著ではあるが決してランク付けした結果ではない──と、まずお断りしておく。掲げたのはあくまでも個人的に、何らかの思い出がある5冊でしかない。選んだ理由は余人には知れず、知ったところでどうもない──という5冊なのである。

 ただ、今回あれこれ調べてみて、意外な発見もあった。私はこれまで自分が始めて買った文庫本は旺文社文庫の芥川龍之介『地獄変・戯作三昧他六編』だと頑なに思い込んでいた。しかしどうやらそれは勘違いだったらしく、最初に買った文庫本は『吸血鬼ドラキュラ』だったようなのである。奥付を見ると1971年4月16日(完訳)初版となっている。昭和46年といえば私はまだ小学校低学年で、ひどく幼い。読んで理解できる年齢とは到底思えない。しかし間違いなく自分で買った記憶もある。つまり、背伸びして買ったはいいが暫く読めずにいて、後から買った芥川の方を先に読んだ──というのが正解なのだろう。すると、私が最初に購入した文庫は創元推理文庫、しかも海外翻訳もの──ということになる。これには少しだけ驚いた。

 と、いうような次第で、『吸血鬼ドラキュラ』は選ばせていただいた。残りもいずれ似たようなつまらない理由で選んだのである。

 果たしてこれで良かったのかどうか。

(1999/4/1) 

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