便宜上ナンバーをつけたが、実際はすべて同ランク──ベスト1だと思って下さい。
『吸血鬼ドラキュラ』は、これをベースにした同題の映画を観て以来、創元推理文庫中、常にトップなのである。近頃、児童用のリライトを手がける必要があって、あらためて読み返した。色々と欠陥はあるが、やはり堂々たる風格を備えている。このタイトルだけで、読者は安心してしまうのだ。
小説の完成度からいえば、短いこともあって、断然「吸血鬼カーミラ」の方が上である。ドラキュラは、その言動からしてとても貴族には見えないが、カーミラの方は、ひとめで淑女と知れる。貴族と吸血鬼──ヨーロッパの歴史だけが可能にした絶妙の組み合わせを愉しめる唯一の小説だ。標題の「吸血鬼カーミラ」以外にも、「シャルケン画伯」等、古き良き時代の傑作ホラー──怪奇小説が詰まっている。ホラーはほんと、昔の方がいい。
作家になる以前、レイ・ブラッドベリは私のあこがれだった。学生時代、この人のように書きたいと、甘いファンタジーばかりこしらえていたものである。それがどうして今のような作風になったのかはわからない。世の中が悪いのだ。ブラッドベリには『10月はたそがれの国』という名品もあるが、最初に読んで、わからないところばかりだったこちらの方が愛着があるのだ。
ブラッドベリもそうだが、ラヴクラフトも名前がいい。どうも私は濁音に弱いようだ。この人が凄いのは、怪物を実在の生き物として描写するところ。「ダンウィッチの怪」の衝撃は今も忘れがたい。傑作集の中で1を選んだのは、これ以外では読めない(と思う)「インスマウスの影」が入っているからだ。
『怪奇小説傑作集』の個人的ベストは1だ。しかし、2のひねくれ具合が実に私向きなのである。いるのはわかるのに、結局、姿を見せない怪物や、少年誌で何度も翻案を読まされたおっかない夢遊病者の話など、漫画化されたりパクられたりした数は、これがいちばん多いと思う。傑作集たる証明である。
どの一冊をとっても、私の小説の先生だ。
(1999/4/1)
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