1. 日本探偵小説全集2  江戸川乱歩集/江戸川乱歩
  2. 亜愛一郎の狼狽/泡坂妻夫
  3. ブラウン神父の童心/G・K・チェスタトン
  4. 招かれざる客たちのビュッフェ
    /クリスチアナ・ブランド
  5. まっ白な嘘/フレドリック・ブラウン

 数ある創元推理文庫の中から、五冊だけ選ぶというのは難しいことです。奇をてらわず、あくまで正攻法で行こうと決め、さらに枠を狭めるため、個人短編集に的を絞ってみました。

 というと、《1には長編も入っているぞ》といわれそうです。しかし、これを落とすわけにはいきません。日本ミステリの父にして母、江戸川乱歩の、決して古びることのない作品がここに集められています。小説『陰獣』に、形と影のように寄り添う、竹中英太郎の挿絵も必見。

 暫く前、一時、老化したかに見えた日本ミステリに、再び春の兆しを見せてくれた作品の一つが2です。泉から水のわき出るように、まさに、惜し気もなく読者の前に供される物語には、ただただ感嘆するのみ。

 さて、海外に行けば、古典の中から、当然、ポオの短編集を選ぶべきところです。しかし、どの巻にするかが難しい。結局、今世紀(残り少ないですが)になってからの3にしました。十九世紀の終わりには、ベーカー街の探偵ホームズが現れ、続く我々の世紀の初めには、ブラウン神父が登場しました。

 黄金時代の作家達からは、何をおいてもクイーン、そしてカーを選ぶべきところですが、彼らは別格と考えましょう。巨匠達の中では、若い世代にあたるブランドの4は、その独特の切れ味、短編集としてのレベルの高さ──つまり、粒の揃い具合ですね──などから、迷うことなく推せるものです。

 ところで《創元推理文庫》で《短編》といわれて、わたしが素直に連想する作家は、F・ブラウンです。その脳髄は、奇想の宝庫といっていいでしょう。《よくこんなこと考えるよ》というアイデアを思いつき、しかも書いてしまう凄い人です。

 以上五冊、《正攻法といいながら、あれが落ちているぞ、これが落ちているぞ》といわれそうですが、並んだ顔触れを見れば、間違いなく一騎当千の強力メンバーだと思います。

(1999/4/1) 

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