田中芳樹が選んだベスト5 創元推理文庫/創元SF文庫

  1. タイタス・グローン/マーヴィン・ピーク
  2. ウロボロス/E・R・エディスン
  3. 暗黒星雲のかなたに/アイザック・アシモフ
  4. ゼンダ城の虜/アンソニー・ホープ
  5. 黒いカーテン/ウィリアム・アイリッシュ

 選定の基準は「創元推理・SF文庫でしか読めないもの」。したがって、歴史的名作であっても他社の出版物で読める作品は最初から除外した。右のような選定結果となったが、順位は便宜上のものであって、各作品間に優劣があるわけではない。どれひとつとっても、創元推理・SF文庫のレーゾンデートルを証明するだけの傑作と信じる。

 まず『タイタス・グローン』だが、ほんとうは《ゴーメンガースト三部作》としたいところだった。ただそれでは冊数がそろわないので、代表として第一部をあげた次第である。人里はなれた巨大な迷宮のただなかで展開される物語は、奇怪で異様でしかも魅惑にみちている。読書とは文字を通して異世界に進入する行為だということが、この作品を味わうとよくわかる。

『ウロボロス』は豪華絢爛たる架空歴史絵巻。敵も味方も精彩に富んだ人物ぞろいで、彼らが武勇と智略のかぎりをつくして渡りあう戦いと冒険のありさまは、歴史絵巻ファンにとって必読のダイゴ味であろう。個人的には、ジャス王の宮殿の書斎と図書室とが、たいへんうらやましい。

『暗黒星雲のかなたに』。SFや宇宙に多少なりとも興味を持つ年少の読者にとって、このタイトルは抵抗不可能の訴求力を持つ。訳文も絶妙だし、エンターテインメントには味のある敵役が不可欠ということも教えられた。

『ゼンダ城の虜』は能天気といえば能天気な西洋チャンバラ小説だが、これなくしては日本の「桃太郎侍」も生まれなかった。血わき肉おどり心はずむ。よろこばれる物語の要素は、洋の東西を問わぬということか。

『黒いカーテン』。冒頭の息ぐるしくなるようなサスペンスと、結末の哀愁とは、容易に忘れがたい。ずっと以前、日本の民放TVで二時間ドラマになったことがある。主演は藤田まこと。昨今なら佐野史郎、あるいは西村雅彦あたりだろうか。

(1999/4/1) 

↑このページのトップへ
著名作家10人が選んだ創元推理文庫・創元SF文庫ベスト5のトップへ
有栖川有栖逢坂剛笠井潔菊地秀行北村薫京極夏彦小池真理子椎名誠|田中芳樹|宮部みゆき江戸川乱歩