今回のベスト5は、本格ミステリを省いて選ぶことにした。ちなみに、創元推理文庫の本格ベスト5は、『エジプト十字架の謎』、『僧正殺人事件』、『黄色い部屋の謎』、『月長石』、『帽子収集狂事件』。
1の『賢者の石』は、コリン・ウィルソンの最高傑作。この小説で語られているウィルソン神秘思想に、わたしは決定的ともいえる影響をうけた。2の『洞窟の女王』は、おなじ作者の『ソロモン王の洞窟』とともに少年時代以来の最大の愛読書だ。この両作に敬意を表して、わたしは『ヴァンパイヤー戦争』のアフリカ篇を書いた。子供のときから、長大な小説が好きだった。『賢者の石』も厚いが、3の『異星の客』はもっと厚い。この作品はヘッセの『荒野のおおかみ』とならび、ヒッピーの聖書と呼ばれた傑作である。4の『結晶世界』は、六○年代英米SFにおけるニューウエーヴの突破口を拓いた記念碑的作品。初期バラード作品が、残らず創元推理文庫で読めたのは、小遣いの乏しい少年にとって嬉しいことだった。以上の四作を幾度も読み返しながら、わたしは自己流の神秘的観念を育てあげた。この点で5の『スカラムーシュ』は、少し性格が異なる。フランス大革命の激動を背景としている作品で、『二都物語』とも共通する時代小説だが、裏も表もない剣豪アクション小説なのだ。『ヴァンパイヤー戦争』のようなアクション小説の背後には、わくわくさせられた『スカラムーシュ』の読書体験がある。
(1999/4/1)
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