柳橋の船宿に居候する、“若さま”と呼ばれる謎の侍がいた。姓名も身分も不明だが、事件の話を聞いただけで真相を言い当てる名探偵でもあった。菖蒲作りの名人の娘が殺され、些細な手がかりから犯人の異様な動機に辿り着く「菖蒲狂い」など、250編近い短編から厳選した25編を収録。「五大捕物帳」の一つにして、〈隅の老人〉に連なる伝説の安楽椅子探偵シリーズの決定版、登場! 解説=末國善己
「舞扇(まいおうぎ)の謎」
「かすみ八卦(はつけ)」
「曲輪(くるわ)奇談」
「亡者殺し」
「心中歌さばき」
「尻取り経文」
「十六剣通し」
「からくり蝋燭(ろうそく)」
「菖蒲狂い」
「二本傘の秘密」
「金の実(な)る木」
「あやふや人形」
「さくら船」
「お色検校(けんぎよう)」
「雪見酒」
「花見船」
「天狗矢ごろし」
「下手人作り」
「勘兵衛(かんべえ)参上」
「命の恋」
「女狐ごろし」
「無筆の恋文」
「生首人形」
「友二郎(ともじろう)幽霊」
「面妖殺し」
城昌幸
(ジヨウマサユキ )1904年東京府生まれ。23年、詩人として日夏耿之介と西條八十の門を潜る。石川道雄、矢野目源一らと興した同人雑誌〈東邦芸術〉に城左門名義で詩を発表、30年に第一詩集『近世無頼』を刊行する。25年に城昌幸名義で「秘密結社脱走人に絡る話」を〈探偵文芸〉に寄稿、探偵作家として〈新青年〉を中心に怪奇・幻想の味わいをもつ掌篇小説を発表する。さらに39年に始まった〈若さま侍捕物手帖〉シリーズは「五大捕物帳」のひとつに数えられるほどの人気を博す。ショートショートの先駆者としても名高く、戦後は〈宝石〉の創刊に携わり、のちに宝石社の社長となる。76年没。