1981年、火星に向けて一組の夫婦が出発、その直後核戦争が勃発した。ロケットは地球の周りを回る衛星と化し、衛星上の男が流す放送が生き残りの人びとを結ぶ情報のよりどころとなった。各地に孤立するコミュニティーのひとつ、ウェスト・マリン地区では、かつて核実験に失敗し人びとの憎しみを集める物理学者、超能力をもつ肢体不自由者の修理工、双子の弟を体内に宿す少女が暮らしていた。ネビュラ賞の候補にもなった、ディック中期の異色作、新訳決定版。解説=渡辺英樹(サンリオSF文庫版『ブラッドマネー博士』を新訳・改題)
フィリップ・K・ディック
アメリカの作家。1928年生まれ。1952年に短編作家として出発し、その後長編を矢つぎばやに発表、「現代で最も重要なSF作家の一人」と呼ばれるまでになる。ゆるぎない日常社会への不信、崩壊してゆく現実感覚を一貫して描き続けた。代表作に『ユービック』『火星のタイム・スリップ』『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』『スキャナー・ダークリー』『ヴァリス』など。1982年歿。
佐藤龍雄
(サトウタツオ )1954年生まれ。幻想文学翻訳家。主な訳書に、ワイリー&バーマー『地球最後の日』、ディック『あなたをつくります』『未来医師』、シュート『渚にて』ほか多数。