欧米では、世界の短編推理小説の傑作集を編纂する試みが、しばしば行われている。本書はそれらの傑作集の中から、編者江戸川乱歩の愛読する珠玉の名作を厳選して全5巻に収録し、併せて19世紀半ばから1950年代に至るまでの短編推理小説の歴史的展望を読者に提供する。第一巻は巻頭に編者の「序」を配し、推理小説の祖といわれるポオ「盗まれた手紙」に始まり、コリンズ「人を呪わば」、ドイル「赤毛組合」、フットレル「十三号独房の問題」など8編を収録し、最初期の半世紀を俯瞰する。新解説=「短編推理小説の流れ1」(戸川安宣)
*旧『世界短編傑作集1』からの主な変更点
◇改題、新カバー
◇エドガー・アラン・ポオ「盗まれた手紙」(丸谷才一訳)とアーサー・コナン・ドイル「赤毛組合」(深町眞理子訳)を新たに収録
◇アントン・チェーホフ「安全マッチ」が池田健太郎氏によるロシア語からの翻訳に
◇バロネス・オルツィ「ダブリン事件」が深町眞理子氏による新訳に
◇新解説=「短編推理小説の流れ1」戸川安宣
「盗まれた手紙」エドガー・アラン・ポオ 丸谷才一訳
「人を呪わば」ウィルキー・コリンズ 中村能三訳
「安全マッチ」アントン・チェーホフ 池田健太郎訳
「赤毛組合」アーサー・コナン・ドイル 深町眞理子訳
「レントン館盗難事件」アーサー・モリスン 宇野利泰訳
「医師とその妻と時計」アンナ・キャサリン・グリーン 井上一夫訳
「ダブリン事件」バロネス・オルツィ 深町眞理子訳
「十三号独房の問題」ジャック・フットレル 宇野利泰訳
※旧『世界短編傑作集1』所収の「放心家組合」(ロバート・バー著、宇野利泰訳)は『世界推理短編傑作集2』に収録
江戸川乱歩
(エドガワランポ )1894年生、1965年歿。大正12年の〈新青年〉誌に掲載された「二銭銅貨」がデビュー作。それはまた、わが国で初めて創作の名に値する作品の誕生であった。以降、「パノラマ島奇談」等の傑作を相次ぎ発表、『蜘蛛男』以下の通俗長編で一般読者の、『怪人二十面相』に始まる年少物で少年読者の圧倒的な支持を集めた。推理小説の研究紹介や、新人作家育成にも尽力した巨人である。