我が国独自のハードボイルド小説を生み出すことに極めて意欲的であった河野典生。第三巻ではその初期代表作を集めた。〈失踪〉テーマこそハードボイルドの正統と考える著者が若い女性の失踪事件を真正面から描いて深い余韻を残す、直木賞候補作の傑作長編『他人の城』に加え、「憎悪のかたち」「腐ったオリーブ」など五つの中短編を収録。巻末エッセイ=太田忠司/解説=池上冬樹
『他人の城』
「憎悪のかたち」
「溺死クラブ」
「殺しに行く」
「ガラスの街」
「腐ったオリーブ」
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『他人の城』三一書房版あとがき
『陽光の下、若者は死ぬ』角川文庫版年譜風あとがき
河野典生
(コウノテンセイ )1935年高知県生まれ。明治大学在学中から演劇活動に熱中する。59年にテレビドラマの原作募集コンテストに投じた短編が佳作入選し、〈宝石〉に掲載されデビュー。64年に長編『殺意という名の家畜』で第17回日本推理作家協会賞を受賞した。75年には『明日こそ鳥は羽ばたく』で第2回角川小説賞を受賞。ハードボイルドのほか、幻想的なSFやジャズ小説の書き手としても知られる。代表作に『他人の城』『ペインティング・ナイフの群像』『街の博物誌』など。2012年没。
北上次郎
(キタガミジロウ )1946年東京都生まれ。明治大学卒。76年に椎名誠らとともに〈本の雑誌〉を創刊、2001年まで本名の目黒考二名義で編集発行人として携わる。同誌創刊号から書評を執筆、のちに書評家として北上次郎の筆名を使うようになり、1984年『冒険小説の時代』が第2回日本冒険小説協会大賞最優秀評論大賞を、94年『冒険小説論 近代ヒーロー像一〇〇年の変遷』が第47回日本推理作家協会賞を受賞。また、藤代三郎の筆名では競馬エッセイを執筆、〈外れ馬券〉シリーズは27巻に亘って刊行された。2023年没。
日下三蔵
(クサカサンゾウ )1968年神奈川県生まれ。専修大学文学部卒。書評家、フリー編集者。主な著書に『日本SF全集・総解説』、『ミステリ交差点』、主な編著に、《年刊日本SF傑作選》(大森望との共編)、《日本SF全集》、《中村雅楽探偵全集》、《都筑道夫少年小説コレクション》、『天城一の密室犯罪学教程』ほか多数。
杉江松恋
(スギエマツコイ )1968年東京都生まれ。慶應義塾大学卒業。国内外のミステリをはじめとする文芸書やノンフィクションなど、幅広いジャンルの書籍について書評・評論活動を展開。読書会・トークイベントの主催も精力的にこなす。主な著書・共著に『バトル・ロワイアルU 鎮魂歌』『東海道でしょう!』『読み出したら止まらない!海外ミステリーマストリード100』がある。