高崎市内の川土手で私立高校に通う女生徒の扼殺死体が発見される。その2日後、今度は同校の女性教師が謎めいた遺書を残して自殺する。そして行方不明だった野球部監督の毒殺死体が発見されるに及んで、俄然事件の背後に甲子園行を目指して熾烈な闘いをくり展げている学校同士の醜い争いが炙り出されてくる……。『模倣の殺意』『天啓の殺意』のトリック・メーカーが、ディクスン・カーの『皇帝のかぎ煙草入れ』に挑戦し、密かな自信をもって読者に仕掛ける巧妙なワナ。『高校野球殺人事件』の改稿決定版。著者あとがき=中町信/解説=折原一
【著者のことば】
「大仰ではなく、小粒ながら、心理的なだましのトリックをメインに据え、読者を最後の一ページまで引っぱって行く『皇帝のかぎ煙草入れ』のような作品を、私はおこがましくも、無性に書いてみたくなったのである。たまに読者から「自作の中で出来が良く、気に入っている作品は?」と問われることがあるが、私はためらわずに、本作を筆頭に挙げている。」
中町信
(ナカマチシン )1935年1月6日、群馬県生まれ。早稲田大学文学部卒。出版社勤務のかたわら、67年から雑誌に作品を発表。第17回江戸川乱歩賞の最終候補に残ったのが、初長編の『模倣の殺意』である。以降、叙述トリックを得意とし、『空白の殺意』『天啓の殺意』『追憶の殺意』など、大がかりなトリックで読者を唸らせた。2009年6月17日逝去。