六甲の山中にある、父の旧友の別荘に招かれた14歳の私は、その家の息子で同い年の一彦とともに向かった池のほとりで、不思議な少女・香と出会った。夏休みの宿題のスケッチ、ハイキング、育まれる淡い恋、身近な人物の謎めいた死──1952年夏、六甲の避暑地でかけがえのない時間を過ごす少年ふたりと少女の姿を瑞々しい筆致で描き、文芸とミステリの融合を果たした傑作長編。解説=戸川安宣
多島斗志之
(タジマトシユキ )1948年生まれ。早稲田大学卒。82年、多島健名義で執筆した「あなたは不屈のハンコ・ハンター」で第39回小説現代新人賞を受賞。85年『〈移情閣〉ゲーム』(別題『龍のプロトコル議定書』)で本格的にデビュー。89年に『密約幻書』、91年に『不思議島』がそれぞれ直木賞候補となる。『少年たちのおだやかな日々』『海賊モア船長の遍歴』『症例A』『離愁』『感傷コンパス』など著作多数。