弁護士の立原恭吾が何者かに殺害された。妻の高子は密かに養子の志史を疑い、かつて探偵事務所に勤務していた甥の若林悠紀に彼の身辺調査を依頼する。悠紀にとって志史は従弟というだけでなく、家庭教師として教えた子供の一人でもあった。謎に満ちた志史の過去を調べるうちに、悠紀は愛憎が渦巻く異様な人間関係の深淵を覗き見ることになる──第30回鮎川哲也賞優秀賞受賞作。解説=宇田川拓也
弥生小夜子
(ヤヨイサヨコ )1972年神奈川県生まれ。白百合女子大学卒。第1回および第5回創元ファンタジイ新人賞の最終候補となる。その後第30回鮎川哲也賞に投じた『風よ僕らの前髪を』で、印象的な人物造形とそれぞれの心の綾を鮮明に描き出す筆力、卓越した文章表現が高い評価を受け、優秀賞を受賞しデビュー。他の著書に『蝶の墓標』がある。