半身を覆う蘇芳色の痣と虚弱な心臓を持ちながら、同級生からの揶揄に対して苛烈なまでの矜持を示した少女・夏野(かや)。小学校時代、ほんの一瞬だけ彼女と交流を持った瑞葉(みずは)は、高校生となって再会したとき、さなぎから蝶に羽化したような夏野に魅了された。数年前に奇妙な自殺を遂げたかつての同級生の死を調査するなかで、二人は距離を縮めていく。自殺した少年・要(かなめ)は夏野の痣の絵を描いたという理由でいじめを受け、それを苦に死を選んだと思われていた。彼を罰するかのように、要の死体は肌の半分を赤い絵の具で痣のように汚されていた――。
弥生小夜子
(ヤヨイサヨコ )1972年神奈川県生まれ。白百合女子大学卒。第1回および第5回創元ファンタジイ新人賞の最終候補となる。その後第30回鮎川哲也賞に投じた『風よ僕らの前髪を』で、印象的な人物造形とそれぞれの心の綾を鮮明に描き出す筆力、卓越した文章表現が高い評価を受け、優秀賞を受賞しデビュー。他の著書に『蝶の墓標』がある。