光源氏の正妻・女三の宮の不義の子とされる薫大将と、源氏の孫にあたる匂の宮――源氏の亡き後ふたりの貴公子の織りなす「宇治十帖」を最後に千年以上に亘って未完とされていた『源氏物語』には、驚くべきことに幻の続編が存在した。貴公子たちの恋の鞘当てが招く、美しき姫君たちの死。平安の宮中を震撼させる怪事に、紫式部と清少納言が挑む。
推理作家にして古典文学者、ふたつの顔を持つ著者のみが書き得た絢爛たる長編小説として名高い表題作に、短編やエッセイも収録した王朝推理傑作選。編集・解題=藤原編集室/解説=森谷明子
*本書使用の挿絵をお描きになった鈴木朱雀氏の消息がわかりませんでした。ご存じの方がいらっしゃいましたら、ご教示くだされば幸いでございます。
薫大将と匂の宮
艶説清少納言
「六条の御息所」誕生
コイの味
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恋人探偵小説
清少納言と兄人の則光
「六条の御息所」誕生――について
岡田鯱彦
(オカダシャチヒコ )1907年東京府生まれ。東京帝国大学卒。49年「妖鬼の咒言」が雑誌〈宝石〉の第3回探偵小説募集の選外佳作に、「噴火口上の殺人」が雑誌〈ロック〉の第2回懸賞探偵小説の第一席に入選する。創作活動と同時期から東京学芸大学の、71年からは聖徳学園短期大学の教授を務める。日本古典文学の研究者らしい遊戯精神と推理小説の興趣が結実した『薫大将と匂の宮』が代表作のひとつに数えられる。主な著書に『紅い頸巻』『樹海の殺人』がある。93年没。