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その男は、四阿(あずまや)いっぱいの雪に埋もれて凍死していた。この異常な状況は、おそらく魔術によるものだ──それも上級魔術師の。事件関係者は、調略に長けた軍人、毒見役の陰陽師、そして“タレント”を持つ近衛将曹ら、一癖も二癖もある者ばかり。魔術を行使して人を殺めると、その証が術者の相貌に顕われるが、関係者にその気配はない。では、誰が、なぜ、そしてどうやって殺人を為し遂げたのか? 菊の御料所で発生した不可能犯罪を調査するのは、権刑部卿・明智小壱郎光秀(あけちこいちろうみつひで)と、陰陽師・安倍天晴(あべのてんせい)。
『短編ミステリの二百年』で日本推理作家協会賞&本格ミステリ大賞を制した著者が、魔術が存在する“日(ひ)の本(もと)”を舞台に贈る傑作本格ミステリ。
小森収
(コモリオサム )1958年福岡県生まれ。編集者、評論家、作家。大阪大学人間科学部卒業。演劇評論家、文芸書の編集者として活動するほか書評・ミステリ評論の分野でも精力的に活躍する。主な著書・編書に『はじめて話すけど……』『小劇場が燃えていた』『都筑道夫ポケミス全解説』『本の窓から』『死の10パーセント フレドリック・ブラウン短編傑作選』『ミステリ=22』、小説の著作に『終の棲家は海に臨んで』『土曜日の子ども』などがある。2022年、三世紀にわたる短編ミステリの歴史を俯瞰したアンソロジー&評論書〈短編ミステリの二百年〉(全6巻)で第75回日本推理作家協会賞および第22回本格ミステリ大賞(ともに評論・研究部門)を受賞。