謎解きを主体とした初期傑作群
《黒川博行警察小説コレクション》

アニーの冷たい朝  『疫病神』『国境』などのノワールで知られる黒川博行氏が、デビュー後しばらくは謎解きを主体とした警察小説の書き手として活躍されていたことを御存知ですか?


 1984年、第1回サントリーミステリー大賞に佳作入選した『二度のお別れ』でデビューした氏は、翌年に同じ刑事コンビを登場させた長編『雨に殺せば』を書き上げ、さらに複数の出版社から『海の稜線』『八号古墳に消えて』『ドアの向こうに』『絵が殺した』『アニーの冷たい朝』などの警察小説を次々と出版しました。途中、女子大生コンビを探偵役に据えた『キャッツアイころがった』(第4回サントリーミステリー大賞受賞作)や、同傾向の『暗闇のセレナーデ』のようなミステリも手掛けましたが、作品数から言って、当時の氏を「本格的な警察小説の書き手」と呼んでも、おそらくどこからも異論は出ないでしょう。


 氏の警察小説は、捜査の過程を丁寧に描き込みながら、事件の意外な真相を提出することに心を砕いた本格的なミステリでした(現在の作風からは想像できないかも知れませんが、トリッキーな趣向も鏤められていたのです)。そして、堅牢なプロットを包み込む愉快な大阪弁の会話が絶妙のひとこと。このユーモラスな雰囲気は他の作家の作品ではなかなか味わえないもので、黒川氏が警察小説から離れてしまった際はたいへん寂しかったものですが、その寂しさを埋めてくれたのがウィングフィールドのフロスト警部シリーズでした――と、これは余談ですが。


 2003年9月より、東京創元社では《黒川博行警察小説コレクション》と題し、この一連の長編を順次、創元推理文庫に収録しています。横山秀夫氏の作品や〈踊る大捜査線〉など、警察を描いた作品が市民権を得た今だからこそ読んでいただきたい、国産警察小説の歴史に残るきわめてユニークな作品群です。


好 評 発 売 中 二度のお別れ

『二度のお別れ』
 ――壮大な誘拐事件の顛末は? 黒マメコンビが活躍する記念すべきデビュー作。

『雨に殺せば』
 ――現金輸送車襲撃事件の裏に隠された黒い意図とは? 黒マメコンビ再登場!

『八号古墳に消えて』
 ――黒マメコンビが、遺跡発掘と大学のポストをめぐる連続殺人事件に挑む。

『海の稜線』
 ――複雑に入り組んだ海運業界の利権をめぐる連続殺人事件。初期の最高傑作。

『ドアの向こうに』
 ――橋梁工事現場で奇妙なバラバラ死体が発見された。数日後に発生した心中事件の現場にバラバラ事件の切り抜き記事が。二つの事件に繋がりは?

『絵が殺した』
 ――白骨死体の身元は、丹後半島から消えた日本画家と判明するが、その背後には過去の贋作事件が。

『切断』
 ――発見された死体は片耳を切り取られ、別人の小指が差し込まれていた。リレー式連続殺人の行く末は?

『アニーの冷たい朝』
 ――デート商法を舞台背景におきつつ、絶妙なストーリー展開を見せる意欲作。

『キャッツアイころがった』
 ――キャッツアイがらみの事件を探る女子大生コンビは、一路インドへ。

『暗闇のセレナーデ』
 ――姉の家で事件に遭遇した美和と冴子の活躍。著者初期の本格作品。

(2003年9月12日/2014年7月18日)

ひとつ前のページへもどるトップページへもどる