高校生のころ異色の閨秀歌人に傾倒していた鹿沼未知は、後ればせの新婚旅行に訪れた伊豆の島で当の詠み人に巡りあい、惹かれていく。旅先で親友の溺死に遭い、気落ちする未知。その現場に居合わせたばかりか、以後も不審な挙動を重ねる夫に懐疑を募らせて……。表題作に、幻想的な掌編「壁の男」及び遺稿「黄鵩楼」七十三枚を同時収録。
日影丈吉
(ヒカゲジョウキチ )1908年東京生まれ。49年、探偵小説専門誌《宝石》の百万円懸賞探偵小説コンクールC級(短篇部門)へ「かむなぎうた」を投じ、江戸川乱歩に絶賛されて二席入選となる。56年に「狐の鶏」で第9回日本探偵作家クラブ賞、90年には『泥汽車』で第18回泉鏡花賞を受賞。おもな著書に『女の家』『応家の人々』『真赤な子犬』『孤独の罠』『多角形』『地獄時計』、またジョルジュ・シムノン『メグレと老婦人』などの訳書がある。91年没。2002年から05年にかけて全集(別巻含め全9巻)が刊行された。