夕暮れどきの宿で、彼がつけた明かりに驚いたかのように椅子の下へ跳び込んだそれは、かぼそい息づかいと黄楊(つげ)の匂いを感じさせる奇妙な〈黒い玉〉。その正体を探ろうと、そこを覗き込んだ彼を待ち受けるのは、底知れぬ恐怖とおぞましい運命だった――。ベルギーを代表する幻想派作家、トーマス・オーウェンが描くありふれた日常に潜む深い闇。怖い話、気味の悪い話など14の物語を収録する。解説=風間賢二
「雨の中の娘」
「公園」
「亡霊への憐れみ」
「父と娘」
「売り別荘」
「鉄格子の門」
「バビロン博士の来訪」
「黒い玉」
「蝋人形」
「旅の男」
「謎の情報提供者」
「染み」
「変容」
「鼠のカヴァール」
トーマス・オーウェン
1910年、ベルギー、ルーヴァンの弁護士の家庭に生まれる。犯罪学の研究で博士号を取得。弁護士として企業の法律顧問となる。文芸評論、美術評論、推理小説、幻想小説……と幅広い分野で活躍。著作に『黒い玉──十四の不気味な物語』『青い蛇──十六の不気味な物語』がある。2002年没。