一年前、偶然出会ったお婆さんに会いたい。しかし手掛かりは、庭に良い匂いの沈丁花が咲いていたことと、その庭でお婆さんが発した不可解な言葉だけ――。思わぬトラブルによりサッカー部を辞め鬱屈した日々を送る航大。春を告げる沈丁花の香りに、親切にしてくれたお婆さんのことを思い出し、記憶を頼りにその家を探していたところ出会ったのは、美しい庭を手入れする不愛想な大学生拓海だった。拓海は植物への深い造詣と誠実な心で、航大と共に謎に向き合う。植物が絡むささやかな“事件”を通して周囲の人間関係を見つめなおす、優しさに満ちた連作ミステリ。鮎川哲也賞優秀賞受賞作。
「春の匂い」
「鉢植えの消失」
「呪われた花壇」
「ツタと密室」
「勿忘草をさがして」
真紀涼介
(マキリョウスケ )1990年宮城県生まれ。東北学院大学卒。『勿忘草をさがして』(応募時タイトル「想いを花に託して」)で第32回鮎川哲也賞優秀賞を受賞しデビュー。