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香芝涼子は今日も、閑古鳥の鳴く店でひとり店番をしている。二年前、店主の祖父が病で倒れた際、美術館の学芸員という職と恋人を捨て、実家の『藤屋質店』に戻ってきた。将来に漠然とした不安を感じつつ、看板猫を撫でていると、外国製の陶製人形を男子大学生が持ち込んでくる。男性二人組という質屋には珍しい客に当惑しつつも、品物を預かって貸し付けしたところ、後にそれが盗品だったと分かり……。人間国宝作の萩焼の写し、いわくありげな櫛とかんざし、未発表の藤田嗣治の絵画など、不思議な縁で質屋に持ち込まれた品々を巡る謎、揺れ動く涼子の思いを優美に描く連作ミステリ。
浅野里沙子
(アサノリサコ )東京都生まれ。2009年、『六道捌きの龍 闇の仕置人無頼控』でデビュー。2010年1月に亡くなった作家の北森鴻とは公私にわたるパートナーで、未完の作品『邪馬台』『天鬼越』(共に〈蓮丈那智シリーズ〉)を書き継いで完成させた。著作は他に、『花篝 御探し物請負屋』『藍の雨』などがある。