困ったひとを見掛けると放ってはおけない心優しき落ちこぼれ青年・軍平は、お人好しな性格が災いしてか度々事件にまきこまれては、素人探偵として奔走する羽目に。殺人の容疑をかぶせられたモデルを救うため鉄壁のアリバイ崩しに挑む表題作をはじめ、数ある著者の短編のなかでもひときわ印象深い名品「観客はただ一人」など五人の女性をめぐる五つの事件を収める。軽やかな筆致が心情の機微を巧みにうかびあがらせ、隠れた傑作と名高い連作推理短編集。解説=岡崎琢磨
「運命の八分休符」
「邪悪な羊」
「観客はただ一人」
「紙の鳥は青ざめて」
「濡れた衣装」
連城三紀彦
(レンジョウミキヒコ )1948年愛知県生まれ。早稲田大学卒。78年「変調二人羽織」で第3回幻影城新人賞を受賞、79年に初の著書『暗色コメディ』を刊行する。81年「戻り川心中」が第34回日本推理作家協会賞を、84年『宵待草夜情』が第5回吉川英治文学新人賞を受賞。同年『恋文』が第91回直木賞を受賞して、恋愛小説の名手として評価を確立する。その後もミステリ的手法を恋愛小説に昇華させた傑作を多数発表。96年『隠れ菊』が第9回柴田錬三郎賞を受賞。2013年没。翌年、第18回日本ミステリー文学大賞特別賞を受賞した。