大正末期から昭和十年代半ば、都市部を中心に「昭和モダン」と呼ばれる大衆文化が栄えた。人々が新奇な刺激と快楽を追い求めるなか、生活様式の変化にともなって、昔ながらの怪談とは趣きを異にする新しいスタイルの怪奇小説が生まれた──。当時ホラー小説の分野で中心的存在だった〈新青年〉誌の掲載作を除外し、犯罪実話雑誌から少年誌までの幅広い媒体から21篇を選び抜いた。編者あとがき=会津信吾
序文 恐怖が娯楽だった時代 会津信吾
高田義一郎「疾病(しつぺい)の脅威」
椎名頼己 「屍蝋(しろう)荘奇談」
渡邊洲蔵 「亡命せる異人幽霊」
西田鷹止 「火星の人間」
角田喜久雄「肉」
十菱愛彦 「青銅の燭台(しよ くだい)」
庄野義信 「紅棒で描いた殺人画」
夢川佐市 「鱶(ふか)」
小川好子 「殺人と遊戯と」
妹尾アキ夫「硝子(ガラス)箱の眼」
宮里良保 「墓地下(ぼちした)の研究所」
喜多槐三 「蛇」
那珂良二 「毒ガスと恋人の眼」
高垣 眸 「バビロンの吸血鬼」
城田シュレーダー「食人植物サラセニア」
阿部徳蔵 「首切術の娘」
米村正一 「恐怖鬼侫魔(きねま)倶楽部奇譚」
小山甲三 「インデヤンの手」
横瀬夜雨 「早すぎた埋葬」
岩佐東一郎「死亡放送」
竹村猛児 「人の居ないエレヴエーター」
会津信吾
(アイヅシンゴ )1959年東京都中野区生まれ。駒澤大学経済学部卒。少年小説、犯罪、映画など、明治から昭和初期にかけての日本の大衆文化、社会風俗の研究・評論を中心に活動。書家・歌人の會津八一は大伯父。横田順彌の感化でSF史研究を志す。同氏との共著『快男児押川春浪』で第9回日本SF大賞を受賞。他の著書に『昭和空想科学館』『日本科学小説年表』、編著に『怪樹の腕』(共編)などがある。