本島人鉄工業者の邸の庭で起きた、日本軍人の決闘騒ぎ。一方は銃殺され、一方は頭部を殴られ意識不明の状態で発見された。最初は単純な事件と思われたが、現場に残された二挺の拳銃はどちらも指紋が拭われており、相手を殺したと目される男の側に落ちていた拳銃は弾が未装填だったことが判明する……。推理と恋と幻想が混然一体となった名匠の最高傑作を、創元推理文庫に収録する。解説=新保博久
日影丈吉
(ヒカゲジョウキチ )1908年東京生まれ。49年、探偵小説専門誌《宝石》の百万円懸賞探偵小説コンクールC級(短篇部門)へ「かむなぎうた」を投じ、江戸川乱歩に絶賛されて二席入選となる。56年に「狐の鶏」で第9回日本探偵作家クラブ賞、90年には『泥汽車』で第18回泉鏡花賞を受賞。おもな著書に『女の家』『応家の人々』『真赤な子犬』『孤独の罠』『多角形』『地獄時計』、またジョルジュ・シムノン『メグレと老婦人』などの訳書がある。91年没。2002年から05年にかけて全集(別巻含め全9巻)が刊行された。