昆虫好きの、おとなしい少年による殺人。その少年は、なぜか動機だけは黙して語らない。家裁調査官の森本が接見から得たのは「生きていたから殺した」という謎の言葉だった。無差別殺人の告白なのか、それとも――。少年の回想と森本の調査に秘められた〈真相〉は、最後まで誰にも見破れない。技巧を尽くした表題作に、短編「シンリガクの実験」を併録した、文庫オリジナル作品。
「五声のリチェルカーレ」
「シンリガクの実験」
深水黎一郎
(フカミレイイチロウ )1963年山形県生まれ。慶應義塾大学文学研究科後期博士課程終了。ブルゴーニュ大学修士号、パリ大学DEA。2007年、『ウルチモ・トルッコ』で第36回メフィスト賞を受賞しデビュー。他の著作に『エコール・ド・パリ殺人事件』『トスカの接吻』『花窗玻璃』など。2011年、「人間の尊厳と八〇〇メートル」で第64回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。