映画『アイリス』に子役として出演し、脚光を浴びた瞳介は、その後俳優として成功できずに高校卒業前に芸能界をやめた。だが、映画で妹役を演じ、現在も俳優として人気を集めている浮遊子との関係は断てずにいる。『アイリス』の栄光が、彼を過去へと縛りつけていた。そしてそれは、監督の漆谷も同じだった。二十八歳で撮った『アイリス』は数々の賞を受賞したが、彼自身はそれ以降どれだけ評価を得ても、この作品を超えられないという葛藤を抱えていた。ひとつの映画が変えた俳優と監督の未来。人生の絶頂の、そのむこうの物語。
雛倉さりえ
(ヒナクラサリエ )1995年滋賀県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科卒。第11回「女による女のためのR-18文学賞」に応募した「ジェリー・フィッシュ」が最終候補に選出される。同作を表題作とした作品集で2013年に書籍デビュー。主な著作に『ジゼルの叫び』『もう二度と食べることのない果実の味を』『森をひらいて』『アイリス』がある。