アコースティックギターの調べは、ぼくの目の前に金色の雨として現われる。指で絹をなでたときには、レモンメレンゲの風味とねっとりした感触を舌に感じる。ぼくは「共感覚」と呼ばれるものの持ち主だった――コーヒー味を通してのみ互いを認識できる少年と少女の交流を描くネビュラ賞受賞作「アイスクリーム帝国」、エミリー・ディキンスンが死神の依頼を受けて詩を書くべく奮闘する「恐怖譚」、マッドサイエンティストが瓶の中につくりあげたメトロポリスの物語「ダルサリー」、町に残される奇妙なしるしに潜む魔術的陰謀を孤独な男女が追う表題作ほか、繊細な技巧と大胆な奇想に彩られた全十四篇を収録する。
「アイスクリーム帝国」
「マルシュージアンのゾンビ」
「トレンティーノさんの息子」
「タイムマニア」
「恐怖譚」
「本棚遠征隊」
「最後の三角形」
「ナイト・ウィスキー」
「星椋鳥(ほしむくどり)の群翔」
「ダルサリー」
「エクソスケルトン・タウン」
「ロボット将軍の第七の表情」
「ばらばらになった運命機械」
「イーリン=オク年代記」
編訳者あとがき
ジェフリー・フォード
1955年ニューヨーク州ロングアイランド生まれ。ニューヨーク州立大学ビンガムトン校で創作を学ぶ。世界幻想文学大賞を七回、シャーリイ・ジャクスン賞を四回受賞したほか、『ガラスのなかの少女』でアメリカ探偵作家クラブ賞オリジナルペーパーバック部門、「アイスクリーム帝国」でネビュラ賞ノヴェレット部門を受賞するなど、ミステリやSFの分野でも高い評価を受けている。著作に〈白い果実〉三部作、『シャルビューク夫人の肖像』、『言葉人形 ジェフリー・フォード短篇傑作選』などがある。
谷垣暁美
(タニガキアケミ )翻訳家。1955年生まれ。ニューヨーク市立大学ハンターカレッジ大学院修士課程修了。訳書に、アーシュラ・K・ル=グウィン『なつかしく謎めいて』、『ラウィーニア』、〈西のはての年代記〉三部作、『私と言葉たち』、ウィリアム・トレヴァー『恋と夏』、ジェフリー・フォード『言葉人形 ジェフリー・フォード短篇傑作選』、共訳書にジェフリー・フォード〈白い果実〉三部作などがある。