夜霧と城館、墓地と黒い森、マントを羽織った黒衣の人影。ヨーロッパの最深部に見え隠れする魅惑的な光景は、日本においても、作家たちの情念を掻きたててやまなかった。その代表格たる須永朝彦と菊地秀行を先陣に据えた本書は、日本の新旧文豪たちによる吸血鬼小説と名作翻訳の集大成である。巻頭に須永による蠱惑(こわく)の手書き掌篇を、巻末に深井国による幻の吸血鬼絵物語を特別収録。
「彼の最期」須永朝彦
「三題噺擬維納風贋画集(さんだいばなしもどきウイーンふうにせぐわしふ)」須永朝彦
「死者の訪(おとな)ひ(スロヴァキア古謡)」須永朝彦訳
「対談 吸血鬼─この永遠なる憧憬」菊地秀行×須永朝彦
「D ─ハルマゲドン」菊地秀行
「吸血鬼入門」種村季弘
「吸血鬼」江戸川乱歩
「吸血鬼」城昌幸
「吸血鬼」柴田錬三郎
「吸血鬼」日影丈吉
「夜あけの吸血鬼」都筑道夫
「忠五郎のはなし」小泉八雲(平井呈一訳)
「恠異(くわいい)ぶくろ(抄)」日夏耿之介
「断章」ジョージ・ゴードン・バイロン(南條竹則訳)
「バイロンの吸血鬼」ジョン・ポリドリ(佐藤春夫訳)
「クラリモンド」テオフィール・ゴーチエ(芥川龍之介訳)
「吸血鬼」マルセル・シュウオッブ(矢野目源一訳)
「小説ヴァン・ヘルシング」須永朝彦編
「ドラキュラへの慕情」深井国
東雅夫
(ヒガシマサオ )1958年神奈川県生まれ。早稲田大学卒。文芸評論家、アンソロジスト。『幻想文学』と『幽』の編集長を歴任。著書に『遠野物語と怪談の時代』(日本推理作家協会賞受賞)、『百物語の怪談史』ほか、編纂書に『日本怪奇小説傑作集』全三巻(紀田順一郎と共編)、『文豪妖怪名作選』『猫のまぼろし、猫のまどわし』ほか多数がある。