綾部蓮という青年は、私たちにとって遠い国の王様のような存在だった。神の贈り物と呼ぶべき才能に恵まれ、美貌をもって周囲の人々を傅(かしず)かせた彼が自殺した時、理由を知る者はいなかった。永遠に時を止めたままの彼を誰もが追い越し忘れ去っていくなか、私たちは思い出す。なぜ青年は自ら命を絶ったのか? 人生の一時期に齎(もたら)される謎と恩寵を忘れ難い余韻とともに描き切った傑作。解説=大矢博子
岩下悠子
(イワシタユウコ )1974年東京都生まれ。97年「砂の蝶」が第23回城戸賞を受賞。『相棒』『科捜研の女』をはじめミステリ・ドラマの脚本を数多く手掛ける一方、2012年に小説「熄えた祭り」を発表する。17年に同作を含む連作集『水底は京の朝』を刊行。流麗な筆致と卓越した構成で、ふたつとない小説世界を紡ぐ俊英。