『日比谷公園の鶴の噴水が歌を唄うということですが一体それは真実でしょうか』――昭和九年、銀座のバーで交わされた奇妙な噂話が端緒となって、帝都・東京を震撼せしめる一大事件の幕が開く。安南国皇帝の失踪と愛妾の墜死、そして皇帝とともに消えたダイヤモンド――事件に巻き込まれた新聞記者・古市加十と眞名古明警視の運命や如何に。絢爛と狂騒に彩られた帝都の三十時間を活写した、小説の魔術師・久生十蘭の長篇探偵小説。初出誌〈新青年〉の連載を書籍化、新たに校訂を施して贈る決定版。解説=新保博久
久生十蘭
(ヒサオジュウラン )1902年北海道生まれ。岸田國士に師事して演劇界で活動する傍ら、34年に〈新青年〉で連作『ノンシャラン道中記』を連載。翌年から同誌で連載を開始した長篇『黄金遁走曲』で、本格的に小説の執筆を始める。52年「鈴木主水」が第26回直木賞を受賞。55年、吉田健一の英訳した「母子像」が「ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン」紙主催の第2回国際短篇小説コンクール第一席に入選する。『金狼』『キャラコさん』『顎十郎捕物帳』『十字街』『肌色の月』ほか著作多数。57年没。