月のない夜、華奢な欄干を破り、一台のタクシーが崖下に転落した。運転手は一命を取り留めたが、乗客の男は即死する。死者は顔いちめんに包帯を巻きつけていたものの、その下にはなぜか傷ひとつなかった──奇怪な謎が読者を魅了する表題作ほか全九編。生涯に亙って緻密極まりない作品を執筆、巨匠鮎川哲也も畏敬した本格推理作家、山沢晴雄の作風を一望できる作品を精選した。編者解題:戸田和光
「砧最初の事件」
「死の黙劇」
「銀知恵の輪」
「金知恵の輪」
「見えない時間」
「ふしぎな死体」
「ロッカーの中の美人」
「密室の夜」
「京都発"あさしお7号"」
山沢晴雄
(ヤマザワハルオ )1924年大阪府生まれ。51年、《宝石》20万円懸賞短篇コンクールに投じた「砧最初の事件」「仮面」が《別冊宝石》に掲載される。翌年、「仮面」が佳作入選。53年には「銀智慧の輪」が第一席入選、54年には「死の黙劇」が佳作入選。2007年に初の著書『離れた家 山沢晴雄傑作集』(日下三蔵編)を刊行、08年版『このミステリーがすごい!』国内編第6位にランクインした。13年没。
戸田和光
(トダカズミツ )1960年東京都生まれ。埼玉大学卒。『ミステリーズ!』や『拳銃天使』『日影丈吉全集 別館』などの書誌情報提供をはじめ、多方面で活躍。〈山沢晴雄セレクション〉の『死の黙劇』『ダミー・プロット』の編纂にも関わる。鉄道ファン。