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其処では、将に着目すべき事件が起りつつあった――上野駅の地下食堂で偶然トランクのすりかえを目撃した警視庁捜査一課長・加賀美敬介が犯人を尾行すると、不可解なことに男はトランクの中身を加賀美に宛てて送っていたのだ。一見単純な犯罪が謎を呼ぶ第一作「怪奇を抱く壁」に始まる、加賀美捜査一課長の事件簿。戦後探偵小説の幕開けを飾った名探偵の短篇を全一巻に集成する。解説=末國善己/編集・解題=藤原編集室
「緑亭の首吊男」
「怪奇を抱く壁」
「霊魂の足」
「Yの悲劇」
「髭を描く鬼」
「黄髪の女」
「五人の子供」
*
「加賀美の帰国」
「「怪奇を抱く壁」について」
角田喜久雄
(ツノダキクオ )1906年横須賀生まれ。22年に最初の探偵小説「毛皮の外套を着た男」が〈新趣味〉の探偵小説募集に入選、26年「発狂」が第1回サンデー毎日大衆文芸賞に入選して、同年同題の作品集を刊行する。37年『妖棋伝』で第4回直木三十五賞の候補になるなど注目をあつめ、『髑髏銭』『風雲将棋谷』を始めとする時代伝奇小説で一躍人気作家となる。戦後まもない47年に本格的な長編探偵小説『高木家の惨劇』を刊行、58年「笛吹けば人が死ぬ」で第11回日本探偵作家クラブ賞を受賞。94年没。