法廷では、ひとりの弁護士が刑事裁判の審理を他人事のように眺めていた。彼は二件の殺人の、有罪が確実視された被告人としてそこにいるにもかかわらず。六年前、駆け出しだった男──プレスコットは、友人からある女性を紹介される。ひと目でその美女ノラの虜になったときから、彼の運命は狂いだした。四部構成の四部すべてに驚きが待つ、ディヴァイン中期の傑作本格ミステリ! 解説=大山誠一郎
D・M・ディヴァイン
1920年スコットランド生まれ。大学職員時代、英国有数のミステリ出版社コリンズ社の探偵小説コンクールに投じた『兄の殺人者』がアガサ・クリスティから高く評価され、執筆活動に入る。デビュー以降もアントニイ・バウチャー、H・R・F・キーティングら具眼の士より絶賛される、極めて完成度の高い本格作品をものした。死後出版の『ウォリス家の殺人』を含め、その生涯で13作の推理小説を発表した。1980年没。
中村有希
(ナカムラユキ )1968年生まれ。1990年東京外国語大学卒。英米文学翻訳家。訳書に、ソーヤー『老人たちの生活と推理』、マゴーン『騙し絵の檻』、ウォーターズ『半身』『荊の城』、ヴィエッツ『死ぬまでお買物』、クイーン『ローマ帽子の謎』など。