事故で昏倒したことがきっかけで、記憶喪失から回復したタウンゼンド。しかし、彼の中では三年半の歳月が空白になっていた。この年月、自分は何をしてきたのか?不安にかられる彼の前に現れた、瑪瑙(めのう)のような冷たい目をした謎の男。命の危険を感じ取った彼の、失われた過去をたどる闘いが始まった。追われる人間の孤独と寂寥を描かせては並ぶ者のない、サスペンスの名手の真骨頂。解説=三橋暁
ウィリアム・アイリッシュ
1903年、アメリカのニューヨーク生まれ。1926年、普通小説Cover Chargeでデビュー。主にコーネル・ウールリッチという名前で創作活動を行い、1940年以降次々とすぐれたミステリを発表する。哀切な雰囲気描写と緊密な文体で、他の追随を許さぬ独自の境地を切り開き、サスペンスの第一人者となった。代表作に『幻の女』『暁の死線』『黒いカーテン』などがあり、短編にも類まれな手腕を発揮している。また『夜は千の目を持つ』「裏窓」など映画化された作品も多い。1968年没。