長編に劣らず短編においてもカーは数々の名作を書いているが、中でも「妖魔の森の家」1編は、彼の全作品を通じての白眉ともいうべき傑作である。発端の謎と意外な解決の合理性がみごとなバランスを示し、加うるに怪奇趣味の適切ないろどり、けだしポオ以降の短編推理小説史上のベストテンにはいる名品であろう。ほかに中短編4編を収録。解説=中島河太郎
「妖魔の森の家」
「軽率だった夜盗」
「ある密室」
「赤いカツラの手がかり」
「第三の銃弾」
ジョン・ディクスン・カー/カーター・ディクスン
1906年アメリカ、ペンシルヴェニア州生まれ。1930年に予審判事アンリ・バンコランが登場する『夜歩く』を発表。ギディオン・フェル博士シリーズの『帽子収集狂事件』、ノンシリーズの『皇帝のかぎ煙草入れ』のほか、カーター・ディクスン名義によるヘンリ・メリヴェール卿シリーズ『ユダの窓』など、オールタイム・ベスト級の傑作を次々とものし、熱狂的な読者を獲得。〈不可能犯罪の巨匠〉と呼ばれる。77年没。