地方の不動産会社で働く瑞季は、鬱屈した日常の中、自分だけの小さな楽しみとして「アルパカのヤスオ」のキーホルダーをひそかに集めている。ところが、孤高を貫いて怖がられている先輩社員の今泉さんとの意外な共通点やささやかな交流を通じて、瑞季の心に少しずつ変化が訪れる――表題作をはじめ、誰かにとっては価値のないものを大事に集める人と、その心を汲み取ろうとする人たち。そんな彼・彼女たちが、ぎこちないながらも心を通わせていく姿を優しく綴った、五つの物語からなる愛おしい短編集。
「梅雨が来る前に」
「きみは湖」
「トカゲのいる闇」
「ハマエンドウが咲いていた」
「へびつかい座の見えない夜」
砂村かいり
(スナムラカイリ )2020年『炭酸水と犬』『アパートたまゆら』で第5回カクヨムWeb小説コンテスト恋愛部門〈特別賞〉を二作同時受賞してデビュー。他の著書に『黒蝶貝のピアス』『苺飴には毒がある』『マリアージュ・ブラン』『コーヒーの囚人』がある。