住人たちが逃げ出し、二度と戻ってこなかったため廃墟になった村、パライソ・アルト。そこを訪れるのは、人生を諦め、命を絶とうと決めた人に限られる。逆立ちで現れた、うなじにコウモリのタトゥーがある少女。車に積んだ札束を燃やしたいと言う大物銀行家のような男。口を利かず、横笛の音色で受け答えする男。廃墟に住む「天使」は、彼らになぜパライソ・アルトにやってきたのか尋ね、生い立ちに耳を傾け、「向こう」への旅立ちを見送る。
生と死、日常と非日常の狭間にたゆたう不思議な場所と、幻のような来訪者たち。詩人としても高く評価されているスペインの作家が贈る、美しく奇妙で、どこかあたたかな物語。訳者あとがき=白川貴子
フリオ・ホセ・オルドバス
1976年スペイン北東部アラゴン州のサラゴサ生まれ。現在も同県に住む。詩や散文などをさまざまな新聞や雑誌に寄稿している。著作に詩集Una pequeña historia de amor(小さな恋の物語)、エッセイ集En medio de todo(それにもかかわらず)などがある。彼の最初の小説El Anticuerpo(抗体)は英語とフランス語にも翻訳された。
白川貴子
(シラカワタカコ )翻訳家。スペイン語の訳書に、ダイナ・チャヴィアノ『ハバナ奇譚』、フリア・ナバロ『聖骸布血盟』、ハビエル・マリアス『執着』、ドロレス・レドンド『バサジャウンの影』がある。