日本SFの黎明期にいちはやく長編『光の塔』を発表し、その後も無尽の博識と自在な語り口で存在感を示した天才作家。奇妙な発端が思いもよらぬ規模の展開を見せる作品群の中でも「縹渺譚(へをべをたむ)」「深森譚(しむしむたむ)」の連作は白眉。片田舎の孤児が思い出の女性との再会を求めさすらう物語は、著者の空前の演出のもと、忘れがたい感動をもたらす。代表的作品集を合冊し、書籍初収録作2編を加えた。巻末エッセイ=山田正紀/『縹渺譚』あとがき=今日泊亜蘭/解説=日下三蔵
「ムムシュ王の墓」
「奇妙な戦争」
「海王星市(ポセイドニア)から来た男」
「綺幻燈玻璃繪噺(きねおらまびいどろゑばなし)」
「縹渺譚(へをべをたむ)――大利根絮二郎の奇妙な身ノ上話――」
「深森譚(しむしむたむ)――流山霧太郎の妖しき伝説――」
「浮間(うきま)の桜 怪賊緋の鷹物語」
「笑わぬ目」
今日泊亜蘭
(キョウドマリアラン )1910年東京生まれ。作家・言語学者。水島多樓(みずしまたろう)名義で作家デビューし、同名義の「河太郎帰化」は直木賞候補となった。57年、今日泊名義で日本初のSF同人誌〈宇宙塵〉に創設時より参加。日本SFが黎明期にあった62年に、いちはやく長編『光の塔』を発表。長らく日本SF界の最長老であった。2008年没。
日下三蔵
(クサカサンゾウ )1968年神奈川県生まれ。専修大学文学部卒。書評家、フリー編集者。主な著書に『日本SF全集・総解説』、『ミステリ交差点』、主な編著に、《年刊日本SF傑作選》(大森望との共編)、《日本SF全集》、《中村雅楽探偵全集》、《都筑道夫少年小説コレクション》、『天城一の密室犯罪学教程』ほか多数。