空にはすさまじい赤光があった。イギリスは片田舎の山奥の、その赤光に燃えたつ古代ローマ人砦に独り遊ぶルシアン・テイラーは、作家になる夢を紡いで暮らしていた。だが、こんな田舎にいて何ができよう。夢に憑かれた彼は故郷をあとにする。牧神が逍遙する山々からサバトの街ロンドンへ……。一人の青年の孤独な魂の遍歴を描く、神秘と象徴に満ちた二十世紀幻想文学の金字塔。
アーサー・マッケン
1863年ウエールズ、カーレオン・オン・アスクで、代々牧師の家系に生まれる。トマス・ド・クインシーやウォルター・スコットの作品に親しみ、詩作を試みるなど早熟な少年期を過ごす。軍医を志すも挫折した後、作家を目指してロンドンで創作活動を開始。出世作にして代表作となった「パンの大神」は、イギリスの文壇に大きな衝撃を与えた。40歳を前に一度筆を折り、約10年にわたりシェイクスピア劇の劇団員として生活を送る中で『夢の丘』、「生活の欠片」などを執筆。第一次世界大戦を機に、怪奇実話や随想を発表するようになり、文筆生活を再開した。1947年没。