相も変わらず天才的な演奏と、鮮やかな推理を披露するいっぽうで世事にはうとい永見だが、原点に立ち返るためにクインテットを活動休止にして、海外に旅立つ唐島に同行すると言い出した。ニューヨークを皮切りに、シカゴ、そしてジャズの聖地ニューオリンズで二人が出合った不思議な出来事をはじめ、全七編を収録。あこがれのミュージシャンが遺した楽器を手に入れた唐島を襲った災難を描く「虎は死して皮を残す」。ニューヨークで管楽器の盗難事件に巻き込まれた永見が見いだした真相「獅子真鍮の虫」。シカゴで仲良くなった老人が行方不明になっていた伝説のジャズメンだったことに端を発した騒動の顛末「サギをカラスと」など、ジャズと不思議に満ちた《日常の謎》的ミステリシリーズ、第三弾。恒例の著者おすすめ、CD・レコード紹介付き。
文庫版では『真鍮のむし』と改題しました。
「塞翁が馬」
「犬猿の仲」
「虎は死して皮を残す」
「獅子真鍮の虫」
「サギをカラスと」
「ザリガニで鯛を釣る」
「狐につままれる」
田中啓文
(タナカヒロフミ )1962年大阪府生まれ。神戸大学卒。93年『凶の剣士』が第2回ファンタジーロマン大賞に佳作入選、『背徳のレクイエム』と改題のうえ刊行してデビュー。同年、サックス・プレイヤーの永見緋太郎が登場する短編「落下する緑」が鮎川哲也編〈本格推理〉に入選。その後、ミステリをはじめとしてSFやホラーとジャンルを越えて活躍する。2002年「銀河帝国の弘法も筆の誤り」が第33回星雲賞を、09年「渋い夢」が第62回日本推理作家協会賞を、16年「怪獣ルクスビグラの足型を取った男」が第47回星雲賞を受賞。主な著書に〈永見緋太郎の事件簿〉〈笑酔亭梅寿謎解噺〉シリーズのほか、『シャーロック・ホームズたちの冒険』『異形家の食卓』『こなもん屋うま子』『ウィンディ・ガール サキソフォンに棲む狐T』『地獄八景』がある。