黒子と中指を失ったものの、才覚を見込んだ伯爵のもと、好事家向けの細密画制作に励む青年クロード。時計仕掛けに魅了され、恩師の裏切り行為を目撃した彼は故郷を出奔、パリでポルノグラフィを扱う書籍商の徒弟として働く。発明家の人生は運命の波涛に呑まれ、わたしの手許には「形見函」が遺された。細部の描写を積み重ね、啓蒙と哄笑の交錯する時代そのものを再現しながら最後の仕切りへ……。「発明」と「物語」をめぐる傑作絵巻。解説=若島正
*『本の雑誌増刊・おすすめ文庫王国2007年度版』ジャンル別ベスト10・現代小説ベスト10に選出(豊崎由美氏選)
アレン・カーズワイル
アメリカとヨーロッパで育ち、フリーランスのジャーナリストとして10年の経験を積んだのち小説家となる。1992年に『驚異の発明家(エンヂニア)の形見函』でデビュー。ドイツ、フランス、ロシアなど12カ国で出版され、国内外の批評家の絶賛を浴びる。グランタ誌の「アメリカでもっとも有望な若手作家」に選ばれ、アイリッシュタイムズ文学賞、メディシス賞などの候補となった。ニューヨーク公立図書館の研究員として過ごした経験をいかし『形見函と王妃の時計』(2001年)を執筆後、初の児童書『レオンと魔法の人形遣い』を刊行。ロードアイランド州プロヴィデンス在住。