『驚異の発明家(エンヂニア)の形見函』
文庫化
アレン・カーズワイル

デビュー作にして、世界の批評家をうならせたポストモダン小説!

 1983年、パリの骨董品オークションで手に入れた、がらくたの詰まった函。それは産業革命以前のフランスで、自動人形の開発に心血をそそいだ天才発明家の「形見函」だった。10の仕切りのなかには、それぞれ、広口壜、鸚鵡貝、編笠茸、木偶人形、金言、胸赤鶸、時計、鈴、釦、そして最後のひとつは空のまま。フランス革命前夜、のちに発明家となる少年クロード・パージュの指が、ジュネーヴの外科医によって“故意”に切り落とされる事件が起こる。ここに端を発する彼の波瀾万丈の生涯について、函におさめられた10の想い出の品は、黙したまま雄弁と語りはじめるのだ――。18世紀という好奇心にみちた時代を鮮やかに再現し、世界の批評家たちを唸らせた驚異のデビュー作!
解説=若島正

*書評より
ジョン・ファウルズが『フランス軍中尉の女』で19世紀を描いたように、ウンベルト・エーコが『薔薇の名前』で14世紀を描いたように、アレン・カーズワイルはこのデビュー作『驚異の発明家(エンヂニア)の形見函』で18世紀末の世界を見事に描出した。――サンフランシスコ・クロニクル

*若島正氏 解説より
本書のタイトルA Case of Curiositiesから直ちに想起されるのは、ディケンズの『骨董屋』(The Old Curiosity Shop)である。『驚異の発明家(エンヂニア)の形見函』は、時代が18世紀末(そして現在)に設定されているように、18世紀から19世紀へ、スターンからディケンズへと通過していく小説であり、さらには、「形見函」という中心的な装置を「書物」そのものの隠喩とするような、ポストモダンふうの趣向を薄物のように身に纏った小説なのだ。(中略)主人公のクロード・パージュ(Claude Page)は英語読みの「ページ」として小説の中にすっぽりとくるまれる。それだけではない。作者のアレン・カーズワイル(Allen Kurzweil)も、こっそりと小説の中に姿を現して、彼自身の名前の由来を明らかにする。「アイン・クルツヴァイル」(ein kurzweil)すなわち「単なる暇つぶし」とは! そこを読んだときに、わたしはまたしてもこの作者にしてやられたと舌を巻いたことを白状しておく。これが本当に新人のデビュー作だなんて、誰が信じることができるだろうか。

……装幀について……
単行本版で作中の「形見函」を美しくかつ妖しく再現し、すばらしい造本で本書の魅力をひきだしてくれたデザイナー、柳川貴代氏(Fragment)のウェブサイトはこちらから。じつに手の込んだ制作過程をご覧いただけます。

FRAGMENT兎影館/『驚異の発明家の形見函・制作過程』

(2003年1月15日/2007年5月7日)

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