ニューヨークの波止場を背景に、五年の刑を終えて出獄した元警官スティーヴ・レトニックが、友人殺しの真犯人を求めて歩きまわる。ハードボイルド派の暗黒街作家として第一線に立つマッギヴァーンが、孤独な主人公を中心にして、冷酷なまでに追及していく人間真理と、暗くさびしい波止場の情景は、読者に息つく暇を与えない。
W・P・マッギヴァーン
アメリカの作家、1924年生まれ。パルプ雑誌作家や記者生活を経て、1948年から長編を書き始めた。ことに52年刊の『ビッグ・ヒート』は批評家から絶賛された。ハードボイルドと心理サスペンスの接点で独自の境地を開き、『最悪のとき』などの傑作を発表。悪徳警官をしばしば採り上げ、スパイものにも手を染めた。一時、映画やテレビの世界に身を置いたが、晩年文壇にカムバックした。1982年歿。
井上勇
(イノウエイサム )1901年広島県生まれ。1923年、東京外国語学校(東京外国語大学)卒業。翻訳家。1985年歿。