常ならぬ突風がロンドンを襲ったその日、下宿屋ビーコン・ハウスを緑衣の男が訪(おとな)った。ある下宿人の旧友で、イノセント・スミスと呼ばれていた男は、出会ったばかりの女相続人の話相手(コンパニオン)に求婚し、そののち来訪していた医師に向けて拳銃を発砲するという奇矯な行為に及んで消え失せた。謎の男を巡る私的裁判が明かす眩惑的真相を描いた巨匠初期の幻の傑作長編、新訳決定版にて登場。解説=松浦正人
G・K・チェスタトン
1874年イギリス生まれ。作家、評論家。逆説と諧謔の大家として知られ、〈ブラウン神父〉シリーズに代表される短編推理小説は、コナン・ドイルの作品と並んで後世の作家たちに計り知れない影響を与えた。また長編『木曜の男』などに顕著な独特の幻想性により、現在でも熱狂的な読者を獲得している。1936年没。
南條竹則
(ナンジョウタケノリ )1958 年東京に生まれる。東京大学大学院英文科博士課程中退。著書に「怪奇三昧」「英語とは何か」他、訳書にチェスタトン「詩人と狂人たち」「ポンド氏の逆説」「奇商クラブ」「知りすぎた男」「裏切りの塔」、ハーン「怪談」、ラヴクラフト「インスマスの影 クトゥルー神話傑作選」他多数。