およそ百年を費やし、〈共和国〉の互聯網(ネット)を探索できるようになった少女・員(エン)。すでに瑞々しい情報の涸れ果てた互聯網上を彷徨うなかで、彼女はcyと名乗る人物に呼びかけられる。ぎこちない会話を交わすうちに、徐々に絆を育む員とcyだが、共和国の緑化政策船団が散布する細菌兵器の脅威がcyに迫っていた。脊椎動物の血から遺伝子を取り込んでその特質を再現する能力を持つ生体兵器として造られ、数百年もの間戦いと孤独の時を繰り返していた員は、ある決意を胸に、緑化政策船団を追う──
兵器として生きる少女にもたらされた、ただひとつの“奇跡”。荒廃した世界に生きる者たちが放つ一瞬の輝きを描いた、『プラ・バロック』の気鋭による傑作本格SF。
結城充考
(ユウキミツタカ )1970年、香川県生まれ。2004年、『奇蹟の表現』で第11回電撃小説大賞銀賞を受賞し、デビュー。2008年、『プラ・バロック』で第12回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。2010年、「雨が降る頃」が第63回日本推理作家協会賞短編部門の候補となった。他の著作に『クロム・ジョウ』『狼のようなイルマ』『アルゴリズム・キル』などがある。