蝶の羽ばたき、彼方の梢のそよぎ、草むらを這うトカゲの気配。カールは、そのすべてが聞こえるほど鋭敏な聴覚を持って生まれた。あらゆる音は耳に突き刺さる騒音になり、赤ん坊のカールを苦しめる。息子の特異さに気づいた両親は、彼を地下室で育てることにした。やがて9歳になった彼に、決定的な変化が訪れる。母親の入水をきっかけに、彼は死という「静寂」こそが安らぎであると確信する。そして、自分の手で、誰かに死を贈ることもできるのだと。――この世界にとってあまりにも異質な存在になってしまった、純粋で奇妙な殺人者の生涯を描く研ぎ澄まされた傑作!
◇ 読者モニターの絶賛の声 ◇
おどろおどろしい話を淡々と美しく紡いでいく作者の力量に感服。――30代女性
忘れられない物語に、また出会うことができた。――40代男性
犯人をあぶりだす物語ではなく、ただ、幸せを願った物語。 凄惨なのに、不思議と心温まる。圧倒的でした。――30代男性
最後まで読み終わってみると最初の言葉の意味がわかるという、一つの輪のような素晴らしく美しい作品でした。――20代女性
トーマス・ラープ
1970年生まれ、オーストリアのウィーン在住の作家、作曲家、ミュージシャン。2007年にDer Metzger muss nachsitzenで作家デビュー。同書をはじめとする美術修復家メツガーが主人公のミステリ・シリーズは、現在までに7作刊行されている。2011年に、シリーズ4作目が書店や学校などが投票権を持つ文学賞Buchliebling(愛読者賞)のミステリ&スリラー部門を受賞。2013年には6作目がウィーン市とオーストリア書籍販売協会が主催するレオ=ペルッツ賞を受賞。また、シリーズ中2作がドイツのテレビ局ARDの制作で2014年夏にドラマ化された。2015年、作風や文体を変え、初めて文学の領域に踏み込んだ『静寂』が、本国だけでなくドイツ語圏の読書界で非常に高く評価された。『静寂』はすでにオランダやスペインなどで翻訳刊行されている。
酒寄進一
(サカヨリシンイチ )ドイツ文学翻訳家。1958年生まれ。和光大学教授。主な訳書――2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位のシーラッハ『犯罪』、2021年日本子どもの本研究会第5回作品賞特別賞を受賞したコルドン〈ベルリン三部作〉、ヘッセ『デーミアン』、ブレヒト『アルトゥロ・ウイの興隆/コーカサスの白墨の輪』、ノイハウス〈刑事オリヴァー&ピア・シリーズ〉、ホフマン『牡猫ムルの人生観』。