圧倒的なスケールと驚愕の結末。3部作はついにクライマックスへ
ロビン・ホブ〈ファーシーアの一族〉

『真実(ヴェリティ)の帰還』上下

 中世のヨーロッパを思わせる異世界、そこに不思議な力を持つ、遠視者(ファーシーア)一族が治める六公国がある。
 沿岸に位置するベアルンズ、バック、リッポン、ショークスの4つの公国と、内陸のティルス、ファロウの2つの公国で成り立ち、そのうえに牡鹿城(バックキープ)に居をかまえる遠視者一族の王が君臨している。
 その国で、世継ぎの王子の私生児として生まれた、一人の男の子がいた。出自ゆえに庶子(フィッツ)と呼ばれるその子は、母親の記憶をもたず、父は彼の存在ゆえに世継ぎの王子の地位を捨て、息子の顔を見ぬままに隠棲してしまう。顧みられることなく、犬や馬を友として厩舎で育てられていたフィッツだが、やがて祖父である国王の命令で密かに暗殺者としての教育を受けることになる。

 王家の影として生きる運命を背負わされた少年フィッツの成長と内憂外患に苦しむ六公国の運命を圧倒的な筆致で描いた傑作異世界ファンタジー〈ファーシーアの一族〉3部作は、『真実(ヴェリティ)の帰還』で、いよいよクライマックスを迎えます。

 王位に野心を燃やす叔父のリーガルに捕らえられたフィッツ。命だけはなんとかとりとめたものの、払った犠牲はあまりに大きかった。ブリッチとシェイドをのぞいて、フィッツが生きていることを知るものはいないのだ。

 一方、バックキープでは、シュールード王は殺され、旧きものを求めて旅立った正統な継ぎの王ヴェリティは行方が知れない。身の危険を感じた継ぎの王妃ケトリッケンは、間一髪でリーガルの魔手を逃れて山の王国に旅立ったものの、付き従うことができたのは道化ただひとり。王位は簒奪者の手におち、沿岸諸公国は見捨てられた。
 フィッツは、死んだと思われていることを利用してリーガルに復讐すべく、絆を結んだ狼だけを伴い、単身内陸の地を目指す。だが、そこに待ち受けていたのは、リーガルと〈技〉をもったリーガルの連だった。

 リーガルの罠からフィッツを救ったのは、なんと行方不明となっている正統の王ヴェリティの、圧倒的な〈技〉の力だった。
 「わがもとに来よ」ヴェリティの呼びかけに、すべてを投げ出してこたえようとするフィッツ。だが、王はどこにいるのか?
 一方、フィッツを捨てたはずの恋人モリーは、密かに彼の娘を産んでいた。このままではファーシーアの血をひく自分の幼い娘が、後継者争いに巻き込まれる。六公国に対する義務と我が娘への愛情の板挟みに苦悩するフィッツ。

 リーガルの魔手が迫るなか、フィッツは果たして王を見つけ、六公国を救うことができるのだろうか? 圧倒的なスケールと、驚愕の結末。
 〈ファーシーアの一族〉は、ついにクライマックスへ。

 『騎士(シヴァルリ)の息子』『帝王(リーガル)の陰謀』『真実(ヴェリティ)の帰還』とお読みくださった皆様、実はこの〈ファーシーアの一族〉には続編があるのです。ネタばれになってしまいますのでここでは詳しくご紹介できませんが、〈Tawny Man〉というこのシリーズ、『真実の帰還』のラストから15年後に物語がはじまります。フィッツと道化が登場します。狼のナイトアイズも高齢ですが生きています。
 どうしても内容をお知りになりたい方は、『真実の帰還』の訳者あとがきで少しだけ紹介していますので、そちらをお読みください。

 このシリーズも創元推理文庫から刊行を予定していますが、なにせ15年後の物語です、多少間があきますが、どうかご容赦ください。
(2006年1月20日)