次々に襲いかかる困難、フィッツの、そして六公国の運命は?
ロビン・ホブ〈ファーシーアの一族〉

『帝王(リーガル)の陰謀』上下

帝王の陰謀・上  遠くを見、互いに意志を疎通させる不思議な力を持つ遠視者(ファーシーア)一族が治める六公国。その王位継承者の息子でありながら、庶子であるがゆえに王家の影として生きる運命を背負ったひとりの少年がいた……。名前をもたなかった少年はその生まれのままにフィッツ(庶子)と呼ばれるようになる。

 『騎士(シヴァルリ)の息子』で開幕した傑作異世界ファンタジー〈ファーシーアの一族〉もいよいよこの2巻目『帝王(リーガル)の陰謀』で佳境にはいります。


 山の王国での出来事ですっかり身体を壊してしまったフィッツ。思うようにならない自分の身体に若いフィッツはいらだちを隠せない。このままでは自分は暗殺者としても、王の臣下としても使いものにならない役立たずになってしまう……。
 しかもフィッツにはひそかに心に想う女性がいた。かつてバックキープの町で一緒に遊んだ、幼なじみの蝋燭店の娘モリーだ。
 フィッツはやっとの思いでバックキープの城に戻った。そして思いがけないことに、そこでモリーに再会する。だが王家の私生児と一介の侍女、周囲がふたりの仲を認めるわけはなかった。

帝王の陰謀・下

 一方、六公国を取り巻く情勢も厳しさを増していた。赤い船団の襲撃は相変わらず続き、溶化される者も増える一方だった。継ぎの王ヴェリティは赤い船団を迎え撃つ船の建造に力を尽くし、同時にもてる〈技〉のすべてを注ぎ込んで襲撃を未然に防ごうとする。そんななか山の王国からひとり嫁いできた王妃ケトリッケンは、慣れない宮廷での暮らしに孤独を深めていた。

 どれほど手をつくしても、自分の力では赤い船団の襲撃を防ぎきれないと知ったヴェリティは、伝説の「旧きもの」を探し出し助力を乞いにいく決心をかためる。
 遠い昔、やはり外島人の襲撃に苦境に陥ったウィズダム王が、伝説の旧きものを探しにいき、彼らの助力を得て侵略者を追い払ったという。ヴェリティは藁にもすがる思いで、沿岸地帯が冬に閉ざされ、襲撃が途絶えている間に旧きものを探し旅立つのだった。

 ヴェリティの出立を密かに喜んでいるものがいた。第三王子リーガルである。王は体調が優れず、継ぎの王は不在、留守を託された王妃はまだ異国の宮廷に慣れていない。まさに好機到来。

 フィッツはリーガルの陰謀から六公国を、そして自分自身の身を守る事ができるのか?


騎士の息子上 『騎士(シヴァルリ)の息子』ではノージーとスミシーという、フィッツと絆を結んだ犬たちの存在が光っていましたが、今回は狼が登場。
 フィッツがバックキープの町の市場にある動物商の店で出会ったチビ狼。狭い檻のなかに閉じこめられ、やせ衰え、人間に対する凶暴な怒りではち切れんばかりの幼い狼、フィッツはそんな狼に自分の姿を重ね合わせてしまいます。そしてどうしても見捨てることができず、もうやるまいと決心していたにもかかわらず再び禁じられた〈気〉の絆を結んでしまうのです。このチビ狼とフィッツの深い絆は、今後の物語の展開に深く関わってきます。

 もうひとつ、忘れてはならないのが道化の存在。謎めいたことしか言わず、いつもフィッツをいらいらさせますが、フィッツを“触媒”と呼び、自分の運命は彼に深く結びついているのだと主張します。まだまだ謎の多い人物ですが、今後のキイ・パーソンになってくることは間違いなし。チビ狼とともにご注目ください。

(2005年6月10日)


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