山の王国での出来事ですっかり身体を壊してしまったフィッツ。思うようにならない自分の身体に若いフィッツはいらだちを隠せない。このままでは自分は暗殺者としても、王の臣下としても使いものにならない役立たずになってしまう……。
しかもフィッツにはひそかに心に想う女性がいた。かつてバックキープの町で一緒に遊んだ、幼なじみの蝋燭店の娘モリーだ。
フィッツはやっとの思いでバックキープの城に戻った。そして思いがけないことに、そこでモリーに再会する。だが王家の私生児と一介の侍女、周囲がふたりの仲を認めるわけはなかった。
一方、六公国を取り巻く情勢も厳しさを増していた。赤い船団の襲撃は相変わらず続き、溶化される者も増える一方だった。継ぎの王ヴェリティは赤い船団を迎え撃つ船の建造に力を尽くし、同時にもてる〈技〉のすべてを注ぎ込んで襲撃を未然に防ごうとする。そんななか山の王国からひとり嫁いできた王妃ケトリッケンは、慣れない宮廷での暮らしに孤独を深めていた。
どれほど手をつくしても、自分の力では赤い船団の襲撃を防ぎきれないと知ったヴェリティは、伝説の「旧きもの」を探し出し助力を乞いにいく決心をかためる。
遠い昔、やはり外島人の襲撃に苦境に陥ったウィズダム王が、伝説の旧きものを探しにいき、彼らの助力を得て侵略者を追い払ったという。ヴェリティは藁にもすがる思いで、沿岸地帯が冬に閉ざされ、襲撃が途絶えている間に旧きものを探し旅立つのだった。
ヴェリティの出立を密かに喜んでいるものがいた。第三王子リーガルである。王は体調が優れず、継ぎの王は不在、留守を託された王妃はまだ異国の宮廷に慣れていない。まさに好機到来。
フィッツはリーガルの陰謀から六公国を、そして自分自身の身を守る事ができるのか?
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