2003年度の創元推理三賞贈呈式ひらかる

 2003年10月3日午後6時半、飯田橋のホテル メトロポリタン エドモント〈悠久の間〉にて、創元推理三賞の贈呈式が開かれました。

 すでに本サイトでも御案内しましたとおり、鮎川哲也賞は森谷明子氏の『千年の黙(しじま) 異本源氏物語』(応募時の『異本・源氏藤式部の書き侍りける物語』を改題)、創元推理短編賞は加藤実秋氏「インディゴの夜」と獅子宮敏彦氏「神国崩壊」と決定しています。また今回で最後となる創元推理評論賞は、中辻理夫氏「業と怒りと哀しみと――結城昌治の作品世界――」(応募時の「ノワール作家・結城昌治」を改題)です。

 三賞の贈呈式は、まず〈第13回鮎川哲也賞〉から執り行われました。
受賞者の森谷明子氏が登壇され、東京創元社社長・長谷川晋一から賞状が、また次回第14回鮎川哲也賞から選考委員になっていただく山田正紀先生から正賞のコナン・ドイル像が、さらに前回の第12回受賞者・後藤均先生から花束が贈呈されました。また浜松の〈アガサ図書倶楽部〉より恒例の花束贈呈が行われました。
 選考委員を代表して笠井潔先生が受賞作についてコメントされました。「時代ものの本格ミステリは以前にもあったが、90年代以降に平安時代を舞台にした本格物は初めてで、その点が評価できる。また、いわゆる日常の謎派に時代小説のプラスした所、文章が平易である、テーマが現代的であった点からも評価できる」と述べられました。
 続いて受賞者の森谷明子氏が挨拶をされました。「作品を書くきっかけになった本は、島田荘司『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』、マイケル・フレイン『墜落のある風景』、エリス・ピーターズ『異端の徒弟』、笠井潔『群衆の悪魔』、ローズマリー・サトクリフ『ケルトの白馬』など。その他色々な人の作品に影響を受けて作品を書く事ができた。そして子供の頃に源氏物語とドイルとポオを一緒に書棚に並べていてくれた両親に感謝したい」という味わい深いものでした。

 また〈第10回創元推理短編賞〉は、受賞者の加藤実秋氏と獅子宮敏彦氏が登壇され、小社社長から賞状とそれぞれ賞金30万円の授与、さらに前回の第9回短編賞受賞者・山岡都先生から花束贈呈が行われました。
 選考委員を代表して加納朋子先生は、受賞作について、「「インディゴの夜」はミステリ読者でない一般的な人の興味をひける題材の選び方を評価した」また「「神国崩壊」はミステリ読者向けで、一般読者向きではないが、一発トリックがいい」と明快にコメントされました。
 受賞の挨拶では、加藤実秋氏は「初めて書いたミステリを評価してもらえてうれしい。どんなものが書けるか自分でもわからないので、がんばりたい」と、また獅子宮敏彦氏は「奇抜な話を評価してもらった点に感謝している。学生時代からミステリ読者であったので、(中学時代横溝角川映画に影響されて)これからも精進したい」と述べられました。

 今回をもって休止となる〈第10回創元推理評論賞〉は、受賞者の中辻理夫氏が登壇され、同じく小社社長から賞状と賞金の授与、第七回の評論賞受賞者・波多野健氏から花束贈呈が行われました。
 選考委員を代表して巽昌章先生が、「受賞作は、年代を追って結城昌治の作品を読み解いてゆく、評伝ともいうべきもので、丁寧に考えられたオーソドックスなスタイル、佳作は90年代以降の大きな見取り図を描き、新本格以降の論客らしいスタイルであった。いずれも、「ノワール」「後期クイーン的問題」といったキーワードの引力によって、いかにもそれっぽい文章を書いてしまう危険をはらんでいるが、それに抵抗して独自の言葉づかいを編み出そうとしているか、というところを読者は注目してほしい。評論賞は十回目で終了となるが、この賞の十年間に対し、いま性急な意味づけをすべきではない。最近は、気に入った評論は褒め上げながら、気に入らない傾向のものは存在自体を頭から否定するなど、読者や作家の評論に対する距離のとり方に不健康な面があると思う。気に食わない評論を読むということは、飯の中の砂粒を噛むような経験である。不愉快かもしれないが、砂粒が存在するのはまぎれもない現実なのだ、ということを考えてほしい」というもの。書き手にも読み手にも印象深く受け止められたはずです。  受賞者の中辻さんは「結城昌治を本格的に読みはじめたのは亡くなってからで、読んでいるうちに人に薦めたくなり、古本で買っては人にあげていたが、それでは間に合わなくなったので今回の作品を書いた。いい本を人に薦める気持ちで評論を書きつづけていきたい」と受賞の挨拶を述べられました。

 最後に乾杯の辞として、来賓で、昨年亡くなられた鮎川哲也先生の奥様、芦川澄子氏より、「鮎川哲也は若い推理作家を育てることに情熱をもっていたので、今後もこの賞がいい作家を生み出すことに期待したい」とのお言葉をいただき、大いに歓談が盛り上がりました。
 受賞作『千年の黙(しじま) 異本源氏物語』は2003年10月11日、小社より単行本で刊行されています。
 また短編賞受賞作「インディゴの夜」と「神国崩壊」、評論賞受賞作「業と怒りと哀しみと――結城昌治の作品世界――」は、9月11日に小社より刊行された『ミステリーズ! vol.02』に掲載されています。同号には三賞の選考経過ならびに各氏の受賞の言葉が掲載されています。併せてお読みください。また評論賞佳作「九〇年代本格ミステリの延命策」(諸岡卓真)は、12月11日発売の『ミステリーズ! vol.03』に掲載されます。

 また来年度から、〈創元推理短編賞〉は〈ミステリーズ!短編賞〉と名称を変えて開催されます。読者の皆さまの挑戦を楽しみにお待ちしています。
 鮎川哲也賞の応募要項はこちらを、また、ミステリーズ!短編賞の応募要項はこちらをご覧ください。
(2003年10月15日)

●前年の創元推理三賞レポートを読む
●翌年の鮎川哲也賞贈呈式レポートを読む